EA - ウィリアム・マッカスキル「効果的利他主義の定義」 by EA Japan

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Welcome to The Nonlinear Library, where we use Text-to-Speech software to convert the best writing from the Rationalist and EA communities into audio. This is: ウィリアム・マッカスキル「効果的利他主義の定義」, published by EA Japan on January 10, 2024 on The Effective Altruism Forum.This is a Japanese translation of William MacAskill, 'The Definition of Effective Altruism' available at MacAskill's website. Translated by 清水颯(Hayate Shimizu, link to his Researchmap)今日、世界にはさまざまな問題がある。7億5千万人以上の人々が1日1.90ドル以下(購買力平価換算)で生活している[1]。マラリアや下痢、肺炎など、簡単に予防できる原因で、毎年約600万人の子どもたちが亡くなっている[2]。気候変動は環境に大打撃を与え、経済に何兆ドルもの損失をもたらすと言われている[3]。世界の女性の3分の1は、性的または身体的な暴力に苦しんだことがある[4]。3,000発以上の核弾頭が世界中で高い警戒状態(high alert)に置かれていて、短時間の内に使える状態にある[5]。細菌は抗生物質に耐性を持ち始めている[6]。党派心は強まり、民主主義は衰退しているかもしれない[7]。世界はこれほど多くの問題を抱えており、これらの問題が深刻であることを考えると、私たちはこれらの問題に対して何かをする責任があることは確かである。しかし、何をすればよいのだろうか。私たちが取り組みうる問題は数え切れないほどあり、また、それぞれの問題に取り組む方法もさまざまである。しかも、私たちの資源は限られているから、個人として、あるいは地球全体(globe)として、これらの問題を一度に解決することはできない。それゆえ、私たちは自分たちがもつ資源をどのように配分するのかを決めなければならない。しかし、私たちは何を基準にそのような決断を下すべきなのか。その結果、効果的利他主義コミュニティは、世界の破局的リスクの軽減、家畜のアニマルウェルフェア、グローバルヘルスの分野で大きな成果を上げることに貢献した。2016年だけでも、効果的利他主義コミュニティは、効果の持続する殺虫剤処理された蚊帳を提供することで650万人の子どもをマラリアから守り、3億6000万羽の鶏をケージの檻の中の生活から救い出し、技術的AIセーフティを機械学習研究の主流領域として発展させることに大きな推進力と支援を提供した[13]。この動きは、学術的な議論にも大きな影響を及ぼしてきた。このテーマに関する書籍には、ピーター・シンガー著『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと:〈効果的な利他主義〉のすすめ』や私自身の『〈効果的な利他主義〉宣言!』などがあり[14]、効果的利他主義を支持ないし批判する学術論文は、Philosophy and Public AffairsやUtilitas、Journal of Applied Philosophy、Ethical Theory and Moral Practiceその他の刊行物に掲載されてきた[15]。Essays in Philosophyの一巻はこのテーマに特化しており、Boston Reviewには学者たちによる効果的利他主義についての論考が掲載されている[16]。しかし、効果的利他主義について有意義な学術的議論を行うには、何について話しているのかについて合意を形成する必要がある。本章では、その一助となるべく、効果的利他主義センターの定義を紹介し、同センターがなぜそのような定義を選んだのかを説明し、その定義に対する正確な哲学的解釈を提供することを目指す。私は、効果的利他主義コミュニティで広く支持されているこの効果的利他主義の理解は、一般の人々の多くや効果的利他主義を批判する多くの人々が持っている効果的利他主義の理解とはかけ離れていると考えている。本稿では、なぜ私がこのような定義を好むのかを説明した後で、この機会を利用して、効果的利他主義に対して広く流布している誤解を訂正する。始める前に、「効果的利他主義」を定義することで、道徳の根本的な側面を説明しようとしているわけではないことに注意することが重要である。経験的研究分野では、科学と工学を区別することができる。科学は、私たちの住む世界の一般的な真理を発見しようとするものである。工学は、科学的理解を用いて、社会に役立つ構造物やシステムを設計し、構築することである。道徳哲学でも、同じような区別ができる。典型的に、道徳哲学は、道徳の本質に関する一般的な真理を発見することを目的としている。これは規範的科学に相当する。しかし、道徳哲学の中にも工学に相当する部分があり、例えば、社会で広く採用されれば、世界を改善することになる新しい道徳的概念を作り出すことができる。「効果的利他主義」を定義することは、道徳性の基本的な側面を説明することではなく、工学的な問題なのだ。この観点から、私は定義が満たすべき二つの主要な要件を提案する。一つ目は、現在、効果的利他主義に従事していると言われている人たちの実際の実践、そしてコミュニティのリーダーが持っている効果的利他主義の理解に沿うことである。二つ目は、その概念が可能な限り公共的な価値を持つようにすることである。つまり、例えば、様々な道徳的見解に支持され、またその道徳的見解にとって有用であるほど十分に広い概念でありながら、その概念の使用者が世界をより良くするために、そうしなかった場合よりも多くのことを行えるほどには限定された概念が望まれる。もちろん、これはバランス感覚を要する作業になる。1. 効果的利他主義の以前の定義「効果的利他主義」という言葉は、「効果的利他主義センター」を設立する過程で、2011年12月3日に関係者17名による民主的なプロセスを経て作られた言葉である[17]。しかし、この用語の公式な定義は導入されていない。長年にわたり、効果的利他主義は、さまざまな人々によって、さまざまな方法で定義されてきた。以下はその例である。私たちにとって「効果的利他主義」とは、持っている1ドル、1時間を使って、最大限の善いことをしようとすることである[18]。効果的利他主義とは「どうしたら、自分にできる最大の違いを生み出せるだろうか」と問いかけ、その答えを見出すために、証拠と慎重な推論を用いることである[19]。効果的利他主義は、非常にシンプルな考えに基づいている:私たちは、できる限りで最大の善を行うべきである〔・・・・・・〕最低限受け入れ可能な倫理的な生活を送るには、余剰資源の相当部分を、世界をより善い場所にするために使うことである。完全に倫理的な生活を送るには、できる限り最大の善を行うことである[20]。効果的利他主義とは、質の高い証拠と慎重な推論を用いて、可能な限りで最大限、他者を助ける方法を考え出す研究分野である。また、そうして出た答えを真剣に受け止め、世界の最も差し迫った問題に対する最も有望な解決策に力を注ぐ人々のコミュニティでもある[21]。効果的利他主義とは、他者に利益をもたらす最も効果的な方法を決定するために、証拠と理性を用いる哲学であり、社会運動である[22]。以上の定義には、いくつかの共通点がある[23]。すべての定義が最大化という考え方を引き合いに出し、福利を高めるという価値であれ、ただ一般に善を達成するという価値であれ、ともかく何らかの価値の達成を話題にしている。しかし、相違点もある。定義(1)(3)は「善を行う」ことについて述べているのに対し、定義(4)と(5)は「他者を助ける」「他者に利益をもたらす」ことについて述べている。他の定義と異なり、(3)は効果的利他主義を、活動や研究分野、運動といった非規範的なプロジェクトではなく、規範的な主張としている。定義(2)、(4)、(5)は、証拠と慎重な推論を用いるという考えを引き合いに出しているが、定義(1)、(3)はそうしていない。効果的利他主義センターの定義は、効果的利他主義を下記のように定義することで、これら各論点に態度を取っている。効果的利他主義とは、証拠と理由を用いて、どうすれば他人のためになるかをできるだけ考え、それに基づいて行為することである[24]。この定義は、私が中心となって、効果的利他主義コミュニティの多くのアドバイザーから意見を聞き、Julia WiseとRob Bensingerの多大な協力を得て作成した。この定義と、それに沿った一連の指針的価値は、効果的利他主義コミュニティの大多数のリーダーによって正式に承認されている[25]。 効果的利他主義に「公式」な定義はないが、当センターの定義は他のどの定義よりもそれに近い。しかし、効果的利他主義のこの声明は、哲学的な読者ではなく、一般的な読者を対象としているため、アクセスしやすくするために、ある程度の正確さが失われている。そのため、ここではより正確な定式化を行った上で、定義の内容を詳しく解説していきたい。私の定義は次のようなものであ...

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